souvenir
箸を休めて趙雲が呟いた。
「このお刺身も、おいしいです」
「それはよかった」
本当は味などよくわからなかった。幸せなはずだ。揃って奥手なのか、この一年口付け以上の発展は無いけれど。それが、初の馬超邸で浮かれていた。趙雲のために家の者に豪勢な食事を用意させたのだろう、馬超の気持ちが嬉しかった。それに馬超が普段より寡黙な事もあって余計に饒舌になっていた。
「孟起殿、つまが落ちてます」
一瞬びくっとした馬超が、膝に乗ったそれに手を伸ばしかけた趙雲を見つめる。気に障る事をしたかと引っ込めようとした手は、両手でがっちりと包まれる。えッと顔を上げれば、馬超の真摯な瞳と目が合った。
「子龍殿。俺の、妻になってほしい」
「………ツマ?」
下を向いた馬超が、いや違う、そうではない等呟く。そして、改めて趙雲の手を握って言う。
「…傍にいてほしいんだ…」
戯れではない。趙雲との関係を真剣に考えて今日、馬超は招いてくれたのだ。急に、浮かれていた自分が恥ずかしくなる。僅かばかり思案すると趙雲は頬をほんのりと染め、空いている手を上に重ねた。
「男の私に務まるかわかりませんが…」
「子龍殿…」
「わ…ッ」
横向きにして抱き上げられ、不安定な体勢になった趙雲が思わず首にしがみつけば、馬超がにッと微笑んだ。
「では、貴方の気が変わらぬ内に」
先程までの態度はどこへ行ったのだろう。思えば、弱気を装って頼み事されるのはこれが初めてではない気がする。何か吹っ切れたらしい馬超に内心呆れつつも、可愛いひとだなと思ってしまう程には趙雲はこの三つ年下の男に骨抜きにされているのだった。
「孟起殿、…」
「俺に任せていればいい」
趙雲は、馬超の手が一枚ずつ衣服に手をかけていくのを戸惑いながらも見ていた。脱がされて興奮するという事を、今日まで知る事がなかった。寝台に寝かせた白い肌に目を細めると、馬超が上衣を脱いでその上に覆い被さった。いつもは優しい口付けを交わす唇が、今は決して弱くはない力で首筋を吸っている。唇が胸に辿り着くと、舌先が桜色のそれをちろちろと弾いた。
「やッ…!」
されるがままだった趙雲が驚いて目をやると、乳首を口に含んだ馬超と目が合ってしまう。見つめたまま馬超はつんと尖ったそれを音を立てて吸い上げ、二本の指できゅっと摘めばもう片方もぷくりと膨らみその手が下へと降りれば今度は趙雲の中心を上下に扱き始めた。
「…!、い、いやっ…!孟起どの…やめ……ッ!」
胸と股間を同時に弄られ、その卑猥な光景に耐え切れなくなった趙雲が思わず叫んだ。
「…嫌なのか?」
「…ッ」
首が横に振られる。行為が嫌なのではない。自分を傷つけまいと、馬超が施してくれるのを趙雲は理解している。ただ目に入る光景と、己のはしたない嬌声は想像以上に受け入れ難いものだった。蕾を撫で擦る人差し指が、趙雲の蜜を纏ってゆっくり中へと挿入される。敷布を握って耐える趙雲の反応を見て、馬超はついにある一点を探り出す。
「ん…ッ!」
「…ここだな」
中指が加わると、蠢く二本の指は別の生き物のように趙雲の内部を這い回る。
「あッ…ン…!そん、な…!」
「…、もう少し」
「ふ…ッ…」
「……大丈夫だな」
水音を立てて指が抜かれると、そこはひくひくと収縮して馬超に貫かれるのを待ち侘びていた。
「これを、貴方の中に……」
確かめるように自身を扱く馬超の、息が上がっていく様子にたまらず趙雲は上体を起こして、下穿きから露になったそれを息を呑んで見つめた。
「ッ子龍殿…触ってくれないか」
戸惑いながらも、馬超がしたように上下に動かすと、屹立は趙雲の手の中で硬く育って天を向いた。思わず趙雲の口を突いて出そうになる言葉は羞恥で言えず、俯く事しかできなかった。
「…上に、乗れるか?」
耳まで赤くなった顔を上げると、そこには馬超の優しい眼差しがあった。こくこくと頷いて胡坐をかいた馬超の肩につかまり、背中に呼気を促すよう擦ってくれる手を感じながら腰を落としていく。後孔が先端を呑み込む。最初の痛みが趙雲を襲う。馬超が、入ってくる。
「っ…は、ン…」
根元まで咥えたのを確認すると馬超がゆっくりと律動を開始する。尻を撫でられ、意識せずとも趙雲の腰が揺らめく。折られた膝の爪先に自重がかかる。
「…っ、…ア…ぁっ!…ンン…ッ!」
「…ずっと、貴方を、こうしたかった」
荒い息が耳にかかり、常より低い声が下腹を渦巻く。尻を掴むと馬超は真っ直ぐ奥を突いて、その形をしっかりと趙雲に教える。欲が、引きずり出される。
「ンぁっ…、わ、私も…、もうき、どのに…ッ…」
「…ッ…ああ…、子龍殿…」
「ずっ…と…ッ、こう、されたかっ、た…!」
その答えに満足すると馬超は、更なる激しさで最奥を突いた。
「ひ、ん…ッ!、ッ、あ!」
「…貴方は…ッ…お前は、…俺のものだッ!」
「、ア……ッ!!」
内壁がきゅうと締まり、一際高い声が上がる。初めて迎える感覚に崩れ落ちそうになった趙雲を、馬超はしっかりと抱きとめる。くったりして当惑する様子に笑みを浮かべては、長い髪を大事そうにいつまでも撫でていた。
end