恋情を募らせている相手に口を吸われ、天にも昇る心地がした。
宮城を離れた人気のない場所で、趙雲は想い人である馬超と逢瀬を重ねていた。互いに想いを伝え合ったわけでもない、邸の往来もない、二人を繋いでいるのはこの奇妙な会合だった。
趙雲の恍惚とした顔に馬超が榛色の瞳を細める。そして押し当てていた唇を離した。
「子龍殿、目を」
「え…ぁ」
馬超の端整な面持ちに見惚れ、閉じる事を忘れていた瞼にそっと親指が添えられた。反対に開いてしまった口に生温かい物が入ってくる。
「!…」
口内を馬超の舌が這い回る。声は塞がれてしまって出ない。両手は自然馬超の肩を掴んでいた。馬超が舌を抜くと、唇と唇との間に銀糸が紡がれた。
「…もうきどの…」
足元の覚束なくなった趙雲を馬超が抱きとめると、趙雲はその肩口に顔を埋めた。二人して、ただそうしているだけだった。
(繭)
了