雪の中、一人佇む姿を見て放っては置けなかった。趙雲が布で金の髪を拭ってやると、ふるふると首を振った馬超の、趙雲を見つめるその目はひどく悲しい色をしていた。
「風邪でもひいたら職務に響く」
「心配してくれるのか」
「…、まあ」
つい、素っ気ない返事をしてしまう。体調を整えるのは武人として当然と趙雲は思うので、馬超の―自暴自棄な面は許せなかった。自棄になってしまうのは、彼の決して明るくない過去がそうさせるのであるけど。
「俺が風邪をひいたら、子龍が世話をしてくれるんだろう?」
「誰が。私は怒ってるんだ」
馬超が目を瞠る。趙雲がこうして感情を露にするのは珍しいことだった。書きかけの竹簡に向かおうとすると、先回りして書机の前に立った馬超が趙雲の手を握った。
「冷たい」
「それは、そうだろう」
「俺が温めてやる」
「それは、執務中だから…」
待って、と趙雲は消え入りそうな声で馬超に囁いた。大急ぎで執務に取り掛かる趙雲を見つめる馬超の目は、もう優しい色を帯びていた。
(雪の日)
了